山の木陰を抜けると、ひんやりとした空気がふわりと広がった。
小さな沢が流れ、苔むした石に陽がぽつぽつ落ちている。
水音と、森に響く子どもたちの笑い声。
あとは足音だけ。
「靴、ぬいでもいい?」
そう聞こえた瞬間、水の中にぽちゃん。
あっという間にみんなが流れに入っていった。
足をつけた水は、驚くほど冷たい。
けれど気持ちよくて、つま先から頭の先まで夏の熱がすうっと抜けていく。
子どもたちは棒を拾い、それぞれの探検をはじめた。
石をよけて、小さな生き物を探したり、
滑らないようにバランスを取りながら川を渡ったり。
ときに手を伸ばし合って助け合う姿が、少し頼もしく見えた。
大人たちは木陰から見守る。
手にはうちわと冷たい麦茶。
笑いながら声をかけるけれど、口はあまり出さず、ただその場を味わっていた。
帰り道は木漏れ日の中をてくてく。
森の小道はしっとりしていて、落ち葉は少し湿っていた。
見上げれば、杉の間から光が差し込み、まるで映画のワンシーンのようだった。
暑さの厳しい夏の日も、森に入れば時間は少しだけゆるやかになる。
特別なことをしなくてもいい。
ただ一緒に歩き、笑い、水に触れる。
そんな一日が、きっとずっと心に残るのだと思う。