なんて美しい光の景だろう。
夜の山あいに佇む五重塔は、まるで闇の中に浮かぶ灯籠のようだった。
静寂の底から立ち上がる光の層。ひとつ、またひとつ、屋根の縁があたたかく照らされ、
風にゆれる紅葉がその光をやわらかく受けとめている。
池に映る塔はもうひとつの世界をつくっていて、
上と下が境なく溶け合うその景色の中に、
ふと、自分の時間までもが鏡の水面に吸いこまれていくような感覚になる。
石段を下るとき、足もとをなぞる光の帯がやさしく道を導いてくれた。
ただそれだけのことが、なぜだか胸に沁みる。
人の手で灯された光が、闇を拒まず、寄り添うようにそこにある。

成相寺の夜は、祈りというより「呼吸」に似ていた。
遠い昔からこの山に流れる息づかいが、
今も静かに、光の中に溶けている。
