夜の校庭に浮かぶ、ひとつの風船。
それは、手のひらに乗るような軽やかさではなく、
地面を押し返すような重みをまとった気球だった。
真っ黒な空の中で、炎がごうっと音を立て、
布を内側から照らし出す。
赤や青や緑のパッチワークが、
まるで光を飲み込んで発光しているみたいに見える。
足元は確かに地面の上にあるのに、
籠に身を寄せた瞬間から、
心はもう半分空に放たれていた。
浮かび上がると、
見慣れたはずのグラウンドも街並みも、
どこか別の世界のように静かに沈んでいく。
人の影は長く伸び、
街の灯りは星のように散らばって、
地上と空の境目が曖昧になっていった。
上に行くことよりも、
ただ「少し離れること」が、
こんなにも新鮮で自由なのだと知る。
気球は風に抗わず、ただ委ねる。
その姿に、自分の暮らしも重ねてみる。
強く進むのではなく、
時に流れにまかせて、
それでもしっかり空を漂っていく。
気球から降りても、
しばらくはまだ心の中で、
ふわりふわりと漂っていた。