雨の名残りがまだ空気にひそんでいる午後、
ふいに海の向こうへひとすじの虹が架かった。
灰色の雲が低く垂れこめて、
世界の色がすこし奪われていたはずなのに、
そのひと筆だけは、ためらいなく鮮やかだった。
天橋立の細い稜線をなぞるように、
静かに、しかし確かに光が落ちている。
まるで、だれかがこの景色をそっと抱きしめたように。
虹はいつも唐突で、こちらの都合など気にしてくれない。
それなのに、現れるたび、
胸のどこかがゆっくりほどけていく。
消えてしまうとわかっているからこそ、
その短い時間が、妙にいとおしい。
雨と晴れのあいだに生まれた一瞬の橋。
渡れそうで渡れないその距離に、
今日という日の手ざわりが、やさしく残った。

