夏のはじまり。
宮津の空がすこし霞んで見える日、足をのばして「金引きの滝」へ。
天橋立のように名の知れた場所ではないけれど、
このあたりには、静かな自然の美しさがまだ息づいている。
駐車場を出て歩きはじめると、木漏れ日の小道。
遠くから、水音がかすかに聴こえてきた。
足を進めるほどに、空気はひんやり。
葉の色は濃くなり、森の奥へ誘われていく。
そして目の前に現れたのは、岩肌を伝ってひろがる滝。
水しぶきが細かく舞い、光にふれてはきらめいて。
まるで森の奥に吊るされたレースのカーテンのようだった。
滝壺は浅く澄んでいて、
砂地には木の葉がひとひら、そっと落ちている。
水面に浮かんで揺れるその姿が幻想的で、しばらく目を離せなかった。
手をのばして水に触れると、思わず声がもれるほど冷たい。
けれどその冷たさは心地よく、夏の熱さも、胸のざわめきも、流れていくようだった。
まわりには、苔むした岩や、緑に覆われた木々。
響くのは滝の音と鳥の声だけ。
時間がすっと遠のき、頭の中が静かになっていく。
地元の人にとっても、この滝は憩いの場所らしい。
夏には子どもたちが水遊びをしている姿も見られるそうだ。
この日も、いくつかの笑い声が森にひびいていた。
滝のそばには小さな祠。
きっと昔から、人々がここに手を合わせてきたのだろう。
水とともに祈りも流れ、時を越えてこの場所に残っている。
ベンチに腰かけて、ただ滝をながめる。
音も、光も、風もやわらかくて。
心の奥がほどけていくのを感じた。
気づけば自然と笑顔になっていて、
「ああ、来てよかった」と、しみじみ思う。
自然からのごほうびのような、やさしい時間だった。
宮津を訪れるなら、ぜひ金引きの滝へ。
天橋立とはちがう静けさのなかで、
きっと、心に残るひとときに出会えると思う。