夜の街角に、やさしい音がひびいた。
「パチ、パチ」と、小さな火のしずく。
子どもたちの手には、細い線香花火。
火を移す瞬間のまなざしは、
大人にはない真剣さと、ときめきに満ちていた。
まるで宝物を見つめるように、
じっと火を追いかける目。
忘れていたあの感覚を、そっと思い出させてくれる。
歩道のすみに置かれたピンクのバケツ。
中には眠る花火の束と、燃え尽きた赤い棒。
遊び終えた静けさが、ほんの少し、夏の記憶をにじませていた。
ふと顔をあげると、星と夜風。
火の粉の音、ふわりと立ち上がる煙。
「夏がはじまったよ」と告げられているようだった。
しゃがみこんでスマホを構えるひと。
レンズの先には、子どもの笑顔と、今だけの火花のきらめき。
「残しておきたいな」と自然に思える夜。
手持ち花火は、特別だと思う。
激しくも、派手でもない。
ただそっと寄り添い、心をくすぐってくれる。
子どものころ夢中で見つめていた火のしずくを、
今は親としてとなりで見ている。
時間は流れても、同じ夏をまた生きている実感がうれしかった。
ぱちりと咲いた小さな花火。
心の奥にぽつんと灯りをともす。
そんなささやかな夜の記憶が、
私たちの夏をそっと彩っていくのだろう。