山をゆっくりと登っていくリフトの揺れに身をまかせると、視界がひらけて町並みが遠く小さくなっていく。谷を流れる川も、駐車場に並ぶ車も、まるで箱庭の一部のようだ。
足もとには、秋の草紅葉。赤や黄色の混じり合う斜面に風が渡り、かすかにすすきの穂が揺れている。その音に耳を澄ませると、夏のざわめきとは違う、静かな透明さがある。
山頂に近づくと、木道が湿原の上をゆるやかに続いている。歩くたび、木の板の軋む音が、心にリズムを刻んでくれる。子どもたちの笑い声が、空気の澄んだ高原に吸い込まれていく。
ふと立ち止まり振り返れば、白馬の峰々が青空の下に連なっている。その壮大さに胸がいっぱいになるのに、不思議とことばは浮かばない。ただ深呼吸をして、風の冷たさと光のやわらかさを受け入れる。
八方尾根の秋は、見渡す景色だけでなく、足元の小さな花や、肩に触れる風まで、すべてが「今だけ」を教えてくれる場所だった。