ひとときの雨

風景

大きな雲が、もくもくと立ちのぼるのを見ていた。
まるで白い山が空に生まれたようで、胸が少しざわつく。

やがて光を失った空の底から、黒い雲が押し寄せてくる。
屋根の上で風が唸り、空気は一瞬にして湿りを帯びる。
その間も、鳥の声や人の足音がふっと途切れて、町が息をひそめた。

そして——
ざあっと、強い雨が地面を叩きはじめる。
石畳に跳ねる水、屋根を駆ける雫。
世界はただ、水の音だけに満たされる。

夕立ちは不思議だ。
来る前の気配も、去ったあとの匂いも、胸の奥に刻まれる。
濡れた土の匂い、光を取り戻した空、洗われたような木々の葉。
それらすべてが、ほんの束の間の劇のように、目の前を通り過ぎていく。

あとには、ひんやりとした風と、どこかすっきりした心だけが残るのだった。

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