夜の海は、昼間とはまるで別の顔を見せる。
波の音は変わらないのに、砂の上を歩く足音がやけに近く響く。
子供たちはそんな空気に少し緊張しながらも、ライトアップされた砂浜を見た瞬間、もう止まらなくなった。
緑の光に染まった砂は、まるで別世界の地面みたい。
ひとりがジャンプすると、その影が長く伸びて、光の海に踊る。
もうひとりは全力で走り出し、残されたのは砂を蹴り上げる音と、少し遅れて消える影だけ。
青いライトに切り替わった瞬間、「うわぁ!」と声が上がる。
色が変わるだけで、さっきまでの砂浜がどこか宇宙の景色みたいになる。
海風が頬を冷やす。波は暗闇の向こうで静かに寄せて返す。
砂にしゃがみこんで手を動かす子もいれば、ただじっと光を見つめる子もいる。
そのどちらも、なんだか心の奥に光が染みこんでいくような時間。
帰り道、松林の中はスポットライトのような灯りが点々と続いていた。
昼間はただの遊歩道なのに、今は小さな舞台みたいだ。
「楽しかったね」と言う声が聞こえる。
それに答える代わりに、ポケットに手を突っ込みながら、海の光を思い出してニヤッと笑う。
あの夜の砂浜は、たぶん一生忘れない。