教会の屋根に掲げられた十字架の向こう、雲間から満月が顔をのぞかせていた。昼と夜のあわいに立つその建物は、どこか時間の流れを拒むように静かで、空の光だけが表情を変えていく。
昼の雲はまだ軽やかで、石造りの壁に柔らかい影を落とす。やがて夜が訪れ、月がその居場所を譲らないように高く昇ると、同じ教会がまるで別の姿をまとったように見える。闇に沈む輪郭の中で、窓のステンドグラスも沈黙し、ただ月明かりだけがすべてを照らしていた。
見上げるたび、十字架の向こうにあるのは、光そのものなのか、それとも人の祈りの形なのか。答えを探すよりも、ただその場に立ち尽くして、夜空と石の冷たさに身を預けている方がふさわしいように思えた。

bsh