山あいで手を合わせる お盆の記憶

お盆墓参り 風景

山あいの空は、朝から厚い雲に覆われていた。
それでも日差しは時おり雲の切れ間から差し込んで、石塔や花立てを明るく照らす。墓地に並ぶ花の色が一瞬、夏の色を取り戻したように鮮やかになる。
お盆墓参り
お盆の墓参りは、毎年少し特別な時間だ。
山から降りてくる湿った風と、線香の甘い香りが混ざって鼻をくすぐる。子どもの頃は、この匂いが少し苦手だったけれど、今はこれが「帰ってきた」証のように感じる。

石塔の前で、娘が小さな手を合わせる。
赤いTシャツに大きな花模様。まだ手は短くてぎこちないけれど、背筋だけはまっすぐだ。
その後ろで、大人の手が同じように合わせられている。二人の姿を見ながら、静かに胸の奥が熱くなる。
お盆墓参り
本堂の屋根には、鬼瓦がこちらを睨むように構えている。
子どもの頃、あの顔が少し怖かった。でも今は、遠くから家族を見守ってくれているようにも思える。屋根の黒い瓦は雨に濡れたみたいに艶やかで、そこから滴る雫が、石畳に小さな音を立てて落ちていた。

帰り道、山の稜線の向こうにうっすらと光が射していた。
きっと、ご先祖さまも空の上から「また来年も元気で」と手を振ってくれている。
お盆の墓参りは、ただの行事じゃなくて、こうして生きている自分と、見えない誰かが確かにつながっていることを感じさせてくれる時間だ。
お盆墓参り

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