夕暮れどきに山を登り、展望台に立った。
まだ空には薄い藍が残り、湖面には細長く伸びる天の橋立が黒々と横たわっている。
遠くの町灯りがぽつぽつと瞬き、川のように流れる光が、いつのまにか星と同じリズムで呼吸をはじめる。
橋立の松並木には、細い灯が点々と連なり、まるで夜の海に浮かぶ航路標識のようだ。
歩く人の姿はここからは見えないけれど、その足音までも想像できるほど、静かな景色が広がっていた。
展望台の欄干にもたれて、ふと息をつく。
近くでは観光客が写真を撮り、笑い声が夜気に溶けていく。
遠くの闇と、すぐそばの賑わい。
その対比が、不思議と心をやわらかくほどいてくれる。
夜がすっかり落ちるころ、下の施設には提灯の明かりが灯り、音楽と人の声が集まっていた。
光の粒が一つひとつ、誰かの時間を照らしている。
その光景を眺めながら、夜の天の橋立は、ただ美しいだけでなく、そこにいる人々の思いまでも包み込んでいるように感じた。
帰り道、ふと足を止めて振り返ると、暗闇に浮かぶ松の帯がまだ見えていた。
まるで夢の残り香のように、静かにそこにあり続けていた。