港に立つと、空気の粒子ひとつひとつが、海からの湿り気を含んでいるのがわかる。
大阪南港は、ただの物流の通り道ではなく、いつもどこか遠くへの入り口のように思えてしまう。
昼の海は、光をまとってきらきらと広がり、沖に浮かぶ船影をかすかに浮かび上がらせる。遠くからこちらを見ているのか、それともこちらが遠くを見つめているのか、その境界が曖昧になる。
夕暮れ時には、雲の切れ間から射す光が、オレンジ色の幕を落とした舞台のように港を染める。積まれたコンテナも、クレーンの影も、しばし無言の観客となり、沈む太陽を見送っている。
南港の時間は、ゆるやかに行き交う船のリズムに合わせて流れていく。
旅立つ者と、戻ってくる者。
それをただ見守る海。
いつか自分も、あの船に乗って水平線の向こうへ行くのだろうか。
そう思うだけで、足元のコンクリートの冷たささえ、少しあたたかく感じるのだった。