海辺の道を進むほどに、光の表情が変わっていく。朝の陽射しは白く、どこか冷たい輝きを放ち、松の枝葉を透かして地面にまだらの影を落とす。昼近くになると、その白さが淡い金色に変わり、海面に散らばる波の粒ひとつひとつが、小さな火花のようにきらめき出す。
風はときに、松笠を転がすほど強く吹き、またあるときは葉先をほんの少し揺らすだけで過ぎていく。そのたびに、ざわざわと低く鳴る松の声が、ひとり旅の自転車に寄り添ってくれる。
砂に近い場所を走れば、潮の香りがぐっと濃くなり、湿った空気が肌にまとわりつく。少し道を外れて林の奥に入れば、ひんやりとした木陰が迎えてくれる。光と匂いと温度の変化が、短い距離のなかで幾度も繰り返され、飽きることがない。
天橋立の道は、ただ一直線に伸びているようでいて、実際はひとつひとつの瞬間の色合いが異なり、まるで万華鏡をのぞくように移ろっていく。
ふと立ち止まって、松の間からのぞく空を仰ぐ。青さは底なしに深く、その奥に吸い込まれるような感覚が訪れる。
──ここでは、自転車を進めることさえ、自然に委ねられているように思える。