恵みの気配、夏の終わりに
稲はすっかり青く実り、田んぼ一面が絨毯のように広がっていた。
木陰から眺める田園は、暑さの中にもほんのり秋の気配を含んでいる。
すこし歩くと、稲の間を風が抜けていく。
さやさやと穂の音がして、緑の波がゆれるたびに稲の呼吸を感じるようだった。
その響きに、胸の重さがふっと軽くなる。
夕暮れ。
雲の切れ間から顔を出した夕日が、空と山の稜線をあたたかく染めていく。
西の空に火がともるその瞬間、風景全体が一瞬、時を止めたかのように静まりかえった。
何気ない日常のなかに、心が震えるほどの美しさがある。
そのことを忘れずにいたいと思った。
明日からは雨の予報。
農家にとってはきっと「恵みの雨」になるのだろう。
乾いた土が水を吸い、命を育む準備がまた整っていく。
自然は、静かに、それでも確かに流れている。
晴れの日があれば、雨の日もある。
そのどちらも、かけがえのない「今日」をつくっている。
田んぼの風景が、そっとそう教えてくれた一日だった。