― 今年の米、どうかな?―
稲が、しゃんとしていた。
見渡す限り、まっすぐ立って、風に身をゆだねている。
まるで、ひとつひとつが呼吸しているようだなあと思った。
空の色は、すこしだけ曇っていて。
日が落ちる直前のような、涼しい光に包まれていた。
でも、田んぼは熱をもっていた。
地面の下から「生きてるぞー」と叫ぶような、あの、土の匂いがした。
今年も、もう、こんなに育ってる。
田植えのころは、ちょっと頼りなく見えた苗たちも、
いまではもう、立派な穂を垂れて、
「今年もよろしく」と言っているみたいだった。
稲の間を吹き抜ける風が、
さわさわと音を立てるたび、
なんだか胸がぎゅっとなった。
懐かしさと、安心と、ちょっとした切なさと。
誰もいない田んぼのまん中で、
ひとり立ち止まっていたら、
遠くの山の方から、ヒグラシの声が聞こえてきた。
ああ、盛夏なんだ。
秋は、もう、すぐそこまで来ている。
ことしのお米は、きっと、おいしい。