夕暮れの空に、電線がいくすじも走っていた。
黒い線は、まるで誰かが大きな紙に鉛筆で引いた落書きのようで、空のひかりに溶け込んでいる。
山の稜線の向こうから、夕日が最後の力をふりしぼって雲を照らす。金色ににじんだ雲が、電線の間からこぼれ出す。ほんの少し角度を変えるだけで、世界の色は青から橙へ、橙から群青へと移り変わっていく。
町の音はまだそこにあるのに、空のほうがずっと大きな声で今日の終わりを告げている気がした。
電線の交差する複雑さも、こんなときには美しく見える。人の手の痕跡と、自然の営みとが、ひとつの景色の中で重なり合っている。
立ち止まって見上げるだけで、暮らしと空とがゆるやかにつながっていることを、教えられるような夕暮れだった。