雲の隙間からひとつの星

風景

夕暮れに立ち上がる雲を見ていると、ただの水蒸気のかたまりなのに、不思議と生き物のように感じられる。
もくもくと膨らむ姿は、山のようでもあり、どこか遠い海を渡ってきた旅人の影のようでもある。

空の深い青に包まれながら、ゆっくりと夜へと移ろっていく時間。
雲の隙間からひとつ、星が灯るのを見つけると、胸の奥でひっそりと音のない拍手をする。
今日もまた、世界はちゃんとまわっているのだ、と。

街の屋根や電線がシルエットになって、空を切り取っている。
その境界に暮らしている自分もまた、雲や星と同じように、この一日の風景をかたどるひとつのかけらなんだと思う。

夜に溶けていく空を見送るたび、ほんの少し、自分の輪郭もやわらぐ気がする。

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