ふと見上げた空に、ふわりと広がる薄紅の花。
真夏の青空に差し出された、花火の残り香のようだった。
庭の一角。
ただの幹にしか見えなかった木が、ある朝ふいに咲き誇っていた。
百日紅。
この名前を初めて知ったのは、小学生のころ。
「百日間も咲く花があるんだよ」と母が教えてくれた。
そのときはただ「長くてすごいね」と笑っただけだった。
けれど大人になって、猛暑の中で咲き続ける姿を見ると、胸がぎゅっとなる。
風が止まった午後、蝉の声を背に、照りつける陽ざしの中で。
それでも軽やかに揺れる薄紅の花。
誰に見られなくても、ちゃんと咲く。
その在り方が美しいと思った。
幹はつるりと滑らかで、「猿も登れない」と書いて猿滑。
けれど根はしっかりと張り、どこか芯の強さを感じさせる。
花は可憐でも、弱くはない。
強さの中に、やさしさをまとっているようだった。
私たちの日々も、少し似ているのかもしれない。
暑さにくたびれる日もあれば、心がしぼむ日もある。
それでも「咲いてるね」のひとことが、思いがけず元気をくれる。
誰かに見てもらえる喜び。
見えない場所でも咲き続ける覚悟。
そのどちらも抱きながら、今日を過ごしていけたらと思う。
百日紅が咲いているあいだ、夏はきっと、まだ続く。
花のように、自分らしく咲ける一日を、私も選んでいきたい。