立秋の港と雲のこと

立秋港 風景
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あの雲のかたちが、ふと気になったのは、港に吹く風がすこしだけ秋の気配をまとい始めた頃だった。

昼の名残りをほんのり残した空に、ふくらんだ綿菓子のような雲がゆっくりと重なり、山の向こうから流れてきた。夏の終わりを告げる、立秋の雲だった。
立秋の港
港のコンクリートが、じんわりと熱を残している。足もとには、ところどころにサビの浮いたボラードが並んでいて、どれも少しずつ違った色をしている。誰にも気づかれないような、でもずっとそこにいるもの。そんな存在に目が止まるのも、この季節のせいかもしれない。

雲は、見上げるたびに表情を変えていく。とくにこの時期は、空を見ているだけで飽きない。

一枚目の雲は、ひときわ大きくて、どこか意志を持っているような姿だった。港の灯りがともる頃、その雲は静かに山影を包み込んでいた。まるで今日という一日を、ふわっとくるんでおやすみなさいと言っているようで、見ているこちらまで気持ちがほぐれてくる。
立秋の港
二枚目の空には、ちょっとしたドラマがあった。重たい雲が幾重にも折り重なって、奥の奥まで深い色。なのにそのすぐ横に、空の明かりがわずかに差し込んでいて、暗さと明るさが絶妙にまじりあっていた。夏の勢いと、秋の静けさ。そのどちらも手放さずにいたいと願う気持ちが、空に映ったようだった。

三枚目には、高く高く広がるうろこ雲。目をこらして見上げると、まるで水の中にいるような、不思議な感覚に包まれる。電波塔のシルエットが、なんとなく心に残る。どこか遠くとつながっているような気がして、あの空の奥にはまだ見ぬ物語があるのかもしれない、なんて、少しだけ想像した。
立秋の港
立秋とはいえ、まだまだ暑さは残る。それでも、風の向き、雲のかたち、虫の声、空気の色――気づけば、少しずつ秋はやってきていた。

そんな立秋の夕暮れに、港を歩きながらふと見上げた空。そのとき心に残ったことを、ただ静かにここに書いておきたいと思った。

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