夏の夜、小さな遊園地にて

風景

夕暮れがゆっくりと群青に変わるころ、小高い丘の上の遊園地へ向かう。
坂道を登りきると、眼下に街の灯りが宝石みたいに散りばめられ、遠くの海岸線が淡く光っている。潮の香りがほんのり漂い、少し湿った夏の夜の空気が肌に心地よくまとわりつく。
夜景
この遊園地には、大きなアトラクションはない。けれども、それがいい。
色とりどりにライトアップされた観覧車は、ゆっくり静かに回りながら夜空に溶け込み、見ているだけで胸がほっとする。地上に降りると、目の前には小さなメリーゴーラウンド。背丈ほどの木馬やタツノオトシゴがくるくる回り、子どもの夢がそのまま形になったようだ。
小さなメリーゴーラウンド
子どもたちは目を輝かせたり、ちょっぴり緊張した顔を見せたりしながら乗り込む。オルガンのようなやわらかい音色に合わせて、ひとつの夏の思い出が刻まれていく。
見守る大人たちも、いつのまにか表情がやわらぎ、写真を撮る手が自然と動く。

夜風に吹かれながら観覧車を振り返ると、青と紫の光が夜空をやさしく照らしていた。華やかすぎないけれど、確かに心を温めてくれる光景。ここには派手な花火も賑やかなパレードもないけれど、「また来たい」と思わせる静かな魔法がある。
小さな観覧車
帰り道、丘を下る足取りが昼間よりも軽くなっていることに気づく。きっと、心のどこかが、この小さな遊園地に癒やされたからだ。

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