稲の穂が風に揺れて、かすかな波のように光っていた。
ひと粒ひと粒が、夏のあいだの陽射しと雨を吸い込んで、ようやく重みを帯びてきたのだろう。
その向こうに、由良川を渡る鉄橋が赤くのびている。
青い空と水面のあいだに、真っ直ぐな線を描いて、季節の移ろいを見守っているようだった。
空には白い雲がゆっくりと形を変えながら流れ、山の稜線は濃い緑を深めている。
ただ立ち止まって眺めているだけで、胸の奥にひろがる余白が心地よい。
もうすぐ稲穂は黄金色に染まり、鳥の声も秋の調べへと変わっていく。
その前の一瞬を、空の青さと川のきらめきと一緒に、そっと記憶にとどめておきたいと思った。