ねむの木の下で感じる、やさしい夏のひととき

ねむの木 風景

ある日、ふと見上げると
風にゆれていたのは、ねむの木の花だった。

細い羽毛の束のように、ピンクと白の糸がほどけて
初夏の光を、そっと受けとめている。
立ち止まらずにはいられなかった。

ねむの木

遠くからは淡い輪郭。
近づけば、一本一本の糸が重なり合い
まるでシルクのような繊細さを見せる。
息を呑むほどの美しさだった。

朝露をまとった花は、さらに透明になり
自然が描いたとは思えないほどに輝いていた。

ねむの木は、夜になると葉を閉じるという。
昼は「おはよう」と開き、夜はそっと眠る。
その名のとおりのやさしい植物だ。

だからだろうか。
ふと出会うと、心のどこかがほどけていく。
「今日も大丈夫」
そんな風に背中を押されるような気がする。

背景にはやわらかな緑。
その奥に霞む山や町の輪郭。
季節は、少しずつ夏へにじんでいく。
ねむの木は、ただ静かに咲いていた。

忙しなく過ぎていく日々のなかで
こうして花を見つけるだけで、その日が特別になる。

そよ風に揺れる姿を見ていると
呼吸もゆっくりに変わる。
何もしていないのに、心が満たされていく。
それだけで十分だと思えた。

もし、ねむの木を見かけたら
どうか足をとめてほしい。

ことばにならないやさしさが
きっとそこにある。

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