石畳の上に、一枚のいちょうの葉が落ちていた。
朝の雨に濡れて、淡い光を返している。
見上げると、木々の枝先にはまだ多くの葉が残っていて、風が通るたび、ゆるやかに揺れている。
黄色というより、光のかたまりのように見えた。
境内の空気はしんとして、どこか遠い時間の中にいるようだった。
人の気配がないのに、そこには確かに何かが「在る」。
それは、いちょうの葉が地に還る音や、石の上を流れる雨の跡、そんなものたちが織りなす静かな呼吸のようだった。
季節が深まるたび、世界は少しずつ手放していく。
それでも、その手放す瞬間にこそ、いちばんの美しさが宿るのかもしれない。
ふと足を止めたまま、濡れた葉の上に映る空を見た。
それは、どこまでも静かな秋の色をしていた。