湖面が光を散らしながら、風にさざめいていた。
山々の青は濃く、空の青は澄み、ふたつが溶け合う境目に、静かな三方五湖が広がっている。
柵越しに眺めていると、遠くの家の屋根の赤がひときわ目にとまる。あたり一面、緑と青に包まれているからこそ、小さな色の違いがくっきりと浮かび上がるのだろう。
誰かがカメラを構えて、湖の方をじっと見つめている。視線の先にあるのは、風景そのものか、それとも、この瞬間を切り取りたいという気持ちか。
湖には、時間がゆっくりと流れている。
行き交う車の音や、どこかの庭から響いてくる草刈り機の音さえも、湖のまわりでは遠くに吸い込まれていくようだ。
ただそこにある、山と水。
その前に立つと、自分の中の余計なざわめきも、少しずつ静まっていく。
三方五湖の景色は、まるで心の底に置き忘れていた古い記憶を、そっと呼び起こしてくれるようだった。