山の影が水面に溶けていくころ、空は薄く金色をまといはじめる。
秋の入り口を知らせる風が、少し冷たく頬をかすめた。
家々の屋根に灯りがともり、海にはゆったりとした船の気配。
昼と夜のあわいに立ち止まると、
時間さえも呼吸をひそめているように思える。
夏の余韻を手放しながら、秋が静かに近づいてくる。
それは足音ではなく、
夕暮れの色や、空気の澄み具合にそっと紛れ込むもの。
湾の向こうで光る小さな明かりを見ていると、
人の暮らしもまた、この景色のひと粒にすぎないのだと
やさしく思い知らされる。
秋の始まりは、いつもこんなふうに、
しんとした心の奥に降り積もっていく。