夏の午後、雲を見上げて

風景

今日は、風にまかせて小道をゆく。

午後の光は強くて、足もとまでじりじり焼くのに、なぜか歩きたくなった。
サンダルの音だけが、一定のリズムでついてくる。

草の間から、オレンジの花。
まっすぐ空を見あげるその姿に、ふと背筋がしゃんとした。
光の下で、ただ咲いている。

黒瓦の屋根が見えてきた。
青空にその輪郭はよく似合う。
端にちょこんと乗った鯱。
いつからそこにいるのだろう。

瓦の重み。
長い時間がしずかに積み重なっている。
見上げる目に、あたたかさがにじむ。

やがてひらけて、水面。
太陽を受けて、きらきら。
湖が笑っているようにも見える。

風がほほをなでる。
さざ波の音と重なって、ことばにできない涼しさが届く。
遠くの山は霞んで、夏の午後らしい景色になっていた。

遠くへ行かなくても。
こんな道に、ひっそりと美しい時間はある。

昨日までただの道だったところが、
今日は特別な一本に変わっていた。

夏の思い出は、にぎやかな場所よりも。
こんな散歩の途中に、そっと隠れているのかもしれない。

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